東京高等裁判所 平成11年(ネ)3910号 判決
被控訴人(控訴人。以下「第一審被告」という。) 株式会社加藤ビルデイング
右代表者代表取締役 加藤春子
右訴訟代理人弁護士 松原実
同 加藤義明
同 清水三郎
被控訴人(以下「第一審被告」という。) 福井放送株式会社
右代表者代表取締役 伊藤嘉治
右訴訟代理人弁護士 高津幸一
主文
一 第一審原告の控訴に基づいて、原判決中第一審原告の第一審被告加藤ビルデイングに対する請求に関する部分を次のとおり変更する。
二 第一審被告株式会社加藤ビルデイングは第一審原告に対し、金三億四三六〇万五〇四〇円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 第一審原告の第一審被告株式会社加藤ビルデイングに対するその余の請求を棄却する。
四 第一審原告が当審で拡張した請求を棄却する。
五 第一審原告の第一審被告福井放送株式会社に対する控訴及び第一審被告株式会社加藤ビルデイングの控訴をいずれも棄却する。
六 第一審原告と第一審被告株式会社加藤ビルデイングとの間に生じた訴訟費用(当審で同第一審被告に対し拡張した請求にかかる訴訟費用を含む。)は第一、二審を通じて九分し、その一を同第一審被告の、その余を第一審原告の各負担とし、第一審原告と第一審被告福井放送株式会杜との間に生じた控訴費用(当審で同第一審被告に対し拡張した請求にかかる訴訟費用を含む。)は第一審原告の負担とする。
七 この判決の第二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一申立て
一 第一審原告
1 原判決を次のとおり変更する。
2 第一審原告に対し、第一審被告らは連帯して二七億二九五〇万円、第一審被告株式会社加藤ビルデイング(以下「第一審被告加藤ビル」という。)は三億三九九〇万円、及びこれらに対する平成三年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
5 第一審被告加藤ビルの控訴を棄却する。
二 第一審被告加藤ビル
1 原判決中、第一審被告加藤ビル敗訴部分を取り消す。
2 第一審原告の請求(当審で拡張された請求を含む。)を棄却する。
3 第一審原告の控訴を棄却する。
三 第一審被告福井放送株式会社(以下「第一審被告福井放送」という。)
1 第一審原告の控訴を棄却する。
2 第一審原告が当審で拡張した請求を棄却する。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決書九頁九行目の「登記請求事件」を「登記手続等請求事件」に、同一七頁七行目の「五四年二月五日」を「五三年一一月二四日」に、同二三頁七行目の「遅れた」を「後れた」に、同一〇行目の「一一月二七日」を「一一月一七日」に、同二四頁三行目及び九行目の「遅れて」を「後れて」に、同二五頁六行目の「平成二年五月三〇日」を「昭和五〇年五月三〇日全面」にそれぞれ改める。
二 当審における第一審原告の主張(請求の拡張)
1 本件弁護士報酬についての消費税は請求金額の三パーセント相当額である。よって、第一審原告は第一審被告らに対し、前記のとおり右消費税相当額を加算した金員とこれに対する遅延損害金の支払を求める。
2 消費税相当額の債権は弁護士報酬に付随するものであるから弁護士報酬について催告して本件訴訟を提起したことにより時効が中断されている。また消費税相当額の具体的な金額は原判決により初めて確定したのであるから、消滅時効は原判決の言渡しがある時まで停止している。
三 第一審被告加藤ビルの主張
1 消費税相当額の請求については消滅時効が完成しているので時効を援用する。
2 第一審原告が原審第一一回口頭弁論期日に相当額の報酬請求をしない旨述べたことは請求の放棄に当たる。
第三証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
当裁判所は、第一審原告が主張する弁護士報酬の合意は認めることができず、相当報酬の金額は後記のとおり認めるのが相当であると判断する。その理由は次のとおりである(なお、本判決では、弁護士が事件の依頼を受けたときに支払を受ける報酬を「着手金」、依頼の目的を達したときに受ける報酬を「報酬金」といい、これらを合わせて「弁護士報酬」という。)。
一 争点1(弁護士会の調停前置)について
この点についての当裁判所の判断は、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」「一 争点1について」の記載と同一であるから、これを引用する。
二 争点2(弁護士報酬の合意)について
この点についての当裁判所の認定と判断は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」「二 争点2について」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決書五二頁二行目の「証拠(」の次に「甲七、」を加え、同一〇行目冒頭から同五三頁四行目末尾までを次のとおり改める。
「 第一審被告加藤ビルは中央土地に対し、同年四月一〇日、賃貸借契約予約契約の預託保証金二億円を返還しようとして二億円を現実に提供したが、中央土地は受領を拒否した。そこで第一審被告加藤ビルは同月一二日第一審原告を代理人として東京法務局に二億円を供託した(乙イ三二、証人持田)。」
2 同五七頁一行目冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。
「(九) 生田及び加賀は、昭和六三年一二月一六日、第一審原告事務所を訪問し、右(六)の着手金一億九五〇〇万円の支払が合意された経緯と根拠について説明を求めた。しかし、第一審原告から右説明がされないまま、とりあえず残金一億一〇〇〇万円のうち五〇〇〇万円を支払って貰いたい旨の要請があり、第一審被告加藤ビルはその年のうちに第一審原告に五〇〇〇万円を支払った。」
3 同六一頁二行目冒頭から同六三頁五行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかし、右供述の趣旨が、第一審原告が内心で着手金と報酬金を合わせて一割と判断して報酬は一割でよい旨返答したというのであれば、着手金を含まない報酬金だけで本件不動産の一割とする合意をした旨の第一審原告の主張と矛盾するし、昭和五一年六月当時には昭和五〇年五月三〇日に全面改正された新たな報酬会規(甲五九。ただし、同号証に同年七月一日全面改正と記載されているのは誤記である(甲三八、弁論の全趣旨)。)が適用され、これによると一億円を超える部分の着手金及び報酬金は経済的利益の価額の各三パーセントと定められていたから、第一審原告主張の合意は右報酬会規の定めとも食い違う結果となる。また第一審原告が中央土地との紛争とセントラル企業との紛争とで事件数が二件になると考え、それぞれ報酬会規に従った報酬金を合算して報酬金を一割とする合意をしたとすると、一割の報酬金のほかに着手金を請求することができることになるが、そのような計算根拠と考え方をもって第一審原告と加藤尚との交渉が進められたことは甲七及び第一審原告本人の供述からもうかがえないし、加藤尚が一割の報酬金のほかに報酬金と同程度とされる着手金をも支払うことに疑念も持たずに第一審原告と弁護士報酬の合意をすることを必然とするような事情があったということもできない。前記のとおり加藤尚は「金に糸目はつけない。」と述べているが、それは言葉のあやにすぎないというべきであり、これをもって直ちに右のような多額の報酬金支払を了承したことの根拠とすることはできない。
また第一審原告主張の弁護士報酬の合意がされていたのであれば、第一審原告が被控訴人加藤ビルの関係者から弁護士報酬について説明を求められた際に第一審原告主張の事実関係を説明すると思われるが、第一審原告は平成元年二月四日に第一審原告事務所を訪ねた生田と加賀に対し、第一審原告が衆議院選挙に立候補する選挙費用として当時の本件不動産の価格の一割程度の金員が必要であるという話の中で佐々木から報酬一割という話が出た旨第一審原告の主張事実と異なる説明をしている(乙イ三七)。このような第一審原告の応答は不自然というほかない。
第一審原告が主張するように弁護士報酬に関する合意は書面でする必要がなく、現実にも口頭でされることが多いから、書面が作成されていないというだけで直ちに合意の事実を否定することはできない。しかし、弁護士の報酬については弁護士会の会則で基準が定められているもののこれと異なる合意が無効となるわけではなく、現実に合意される弁護士報酬の金額は、依頼者と弁護士との人間関係や紛争の内容、解決の見通し等諸般の事情により左右される上、紛争の解決には長期間を要することが少なくなく、委任の当初には解決の時期や方法についての見通しも立っていないことが多く、事件の最終的な解決に至るまでの間に依頼者が死亡したり、経済情勢が変化するといったことも考えられ、依頼者の側からする弁護士及びその事務の遂行についての評価も不動のものではない。このような事情からすると、第一審原告が主張するような極めて多額の弁護士報酬の支払を約束する合意をしたのであれば、その合意を書面化しておく必要性はことさら高いといえ、仮に右合意が書面化されないとしても右合意の存在が第一審原告と第一審被告加藤ビルの双方において何らかの形で記録として残されると思われるのに、本件においてそのような事実を認めるに足りる証拠はない。このことは第一審原告主張の合意の存在しないことを推認させる事情というべきである。
以上に照らすと、甲七及び第一審原告本人の供述は容易に採用することができない。」
4 同六四頁一〇行目の「ある上、」の次に「昭和六三年一二月八日に開かれた常務会の席でも、その場で第一審原告に対する弁護士報酬のことが話題に上っているのに同女は亡夫から聞いたとする弁護士報酬の合意について何らの説明をしておらず、」を加える。
5 第一審原告は当審において、当時第一審被告福井放送の取締役東京支店長であった佐々木秀雄(以下「佐々木」という。)が昭和五三年一一月加藤尚に命じられて第一審原告と弁護士報酬の合意の再確認をしたと主張し、その旨の記載のある佐々木作成の陳述書(甲一〇五)を提出している。
しかし、右佐々木については原審で証人申請はもとより陳述書の提出もされておらず、当審で初めてその陳述書が提出されたものである。この点はさておくとしても、右陳述書には、佐々木が昭和五三年一一月一一日加藤尚から第一審原告に甲五の一の書面を交付するとともに弁護士報酬の確認をしてくるよう命じられ、日を置かずして第一審原告の事務所を訪問して第一審原告から解決した時の物件の時価の一割でよい旨の確認を得た旨の記載がされているが、甲七によるとその後まもなく加藤尚の第二回目の尋問が行われる予定であったことが認められるから(甲七、五六の15によると同月二四日にその尋問が行われたように推認される。)、右尋問手続の機会に訴訟代理人の第一審原告に直接弁護士報酬について確認することができる加藤尚がことさら佐々木に弁護士報酬の確認を依頼するというのはいかにも不自然であるし、佐々木が加藤尚の話の要点を甲五の二の封筒(甲五の一の書面が在中)に記載したとしながら肝心の報酬について記載していないことも不自然である(佐々木は甲一〇五の中で右記載をしなかった理由を説明しているが、その内容は首肯できるものではない。)。なお、右封筒には「壱割で可(謝礼)」との記載があるが、これは第一審原告が自ら記載したものであり、第一審原告は佐々木との会話中に右記載をした旨説明している(甲七)。しかし、第一審原告の右説明を裏付ける証拠はなく、第一審原告がそのような記載をすべき必要性や合理的理由も見いだせないから、これをもって第一審原告主張の弁護士報酬の合意の成立を裏付けるとすることも、甲一〇五中の佐々木の説明を補強するということもできない。したがって、佐々木の右陳述書は容易に信用することができない。
三 争点3(時機に後れた攻撃防御方法の却下)及び第一審被告加藤ビルの当審における主張2について
争点3についての当裁判所の認定と判断は、原判決書六七頁三行目及び同六八頁五行目の「遅れた」を「後れた」にそれぞれ改めるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」「三 争点3について」の記載と同一であるから、これを引用する。
第一審被告加藤ビルは当審において、第一審原告が原審第一一回口頭弁論期日に相当額の報酬請求をしない旨述べたことは請求の放棄に当たる旨の主張をしているが、本件記録を検討すると、第一審原告の右陳述は相当報酬の主張をする予定がないことを明らかにしたものにすぎないことが明らかであるから、第一審被告加藤ビルの右主張は採用することができない。
四 争点4(相当報酬額)について
この点についての当裁判所の認定と判断は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」「四 争点4について」の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決書七二頁一行目冒頭から同七三頁六行目末尾までを次のとおり改める。
「2 本件仲介手数料事件
第一審原告は、本件仲介手数料事件(第四、五事件)の着手金及び報酬金として総額金九〇三万五〇〇〇円が相当である旨主張する。しかし、乙イ三、一〇によると、第一審被告加藤ビルは第一審原告に本件仲介手数料事件の弁護士報酬として昭和五七年一二月一〇日に金一〇〇〇万円、平成二年七月三一日に金一〇〇万円をそれぞれ支払っていることが認められるから、既に第一審原告主張の弁護士報酬額を超える金員が支払われていることが明らかである。したがって、第一審原告の右弁護士報酬請求は理由がない。」
2 同七六頁三行目の「、第九事件」から同八行目末尾までを「が認められる。」に、同七八頁六行目冒頭から同八行目の「本件不動産」までを「そうすると、第一ないし第八」にそれぞれ改め、同一〇行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「(四) そこで、第九事件(控訴審)の着手金について検討する。
前記のとおり、第一審原告は平成元年五月一一日第一審被告加藤ビル専務取締役加賀に宛てて第九事件の委任状の提出を求める手紙を送り、その手紙の中で「控訴審の着手金はなしで、第一審の和解及び判決勝訴の謝金と今後の謝金の合計を物件時価の一割ということで訴訟を遂行させていただきます。」と記載しているから、第一審原告は右手紙により第九事件の着手金及び報酬金について右記載の方法により処理したい旨の申込みをしたものと認められるが、これに対し第一審被告加藤ビルが右申込みを承諾しなかったことは前記認定事実に照らして明らかであるから、第一審原告と第一審被告加藤ビルとの間には第九事件の着手金及び報酬金について特段の合意がされなかったことになる。しかし、弁護士に事件の処理を委任する契約は有償の委任契約であり、着手金は弁護士報酬の一部であるから、右のように当事者間で特段の合意がされなかった場合であっても、受任した弁護士は所属弁護士会の会則の定めを参考とし、訴額、事件の性質、難易、労力の程度及び依頼者との平生からの関係、当事者の意思等を総合して相当とされる着手金の支払を請求することができるというべきである。
そして弁護士の着手金と報酬金の相当とされる金額は前記の事情を総合して判断すべきものであり、着手金と報酬金の各金額は相互に密接な関連を有しているから、第九事件の着手金については後に報酬金と合わせてその妥当な金額を判断することとする。」
3 同八二頁七行目冒頭から同一〇九頁一〇行目末尾までを次のとおり改める。
「(四) 事件等処理により確保した経済的利益の価額
(1) 前記のとおり、第一審被告加藤ビルの依頼の趣旨は中央土地からの訴訟に勝訴又は金銭の支払をもって解決するとともにセントラル企業の所有権移転登記の抹消登記手続を実現することにあったが、弁護士に事件の処理を委任する契約は依頼された事件ごとに締結されるのが原則であり、報酬会規上も裁判上の事件は一件ごと、審級ごとにそれぞれ着手金と報酬金を定めるものとされている(同会規三条)から、右中央土地との訴訟とセントラル企業相手の訴訟とは別個独立の事件であり、それぞれの事件ごとに委任契約が締結されたものとみるほかない。したがって、第一事件は昭和六三年七月一二日の和解成立により、第九事件は平成三年一二月二五日の和解成立によりそれぞれ事件が終了してそれぞれ依頼の目的を達したものというべきである(前記第二、一争いのない事実等4(一)、(六))。そして報酬会規(現に処理中の事件については、従前の報酬会規が適用されるので、第一事件、第九事件とも昭和五〇年五月三〇日全面改正の報酬会規(甲五九)が適用される。)によれば、着手金は事件の依頼を受けたときに、報酬金は依頼の目的を達した時にそれぞれ支払を受けるものとするとされ(二条二項)、着手金は事件の対象の経済的利益の価額を、報酬金はその事件によって得た経済的利益の価額を基準として算定するとされている(一五条)から、第一事件の報酬金は昭和六三年七月一二日の和解成立によって得た経済的利益の価額を基準とし、第九事件の着手金は同事件を受任した平成元年五月における対象の経済的利益の価額を、報酬金は平成三年一二月二五日の和解成立により得た経済的利益の価額を基準としてそれぞれ算定すべきである。もっとも、後記のとおり第一事件の弁護士報酬金請求権は時効により消滅しているので第九事件の着手金と報酬金の金額算定の際に増減の事情として検討することとし、以下、第九事件の着手金と報酬金の金額について検討する。
(2) 第九事件は第六事件と第八事件の控訴事件であり、第六事件の訴訟物は第一審被告加藤ビルのセントラル企業に対する本件不動産の所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求権である(第八事件は第六事件に対する反訴として提起された本件建物の明渡請求事件であり、経済的利益の点では第六事件に包括吸収される関係にあるから、第九事件の対象の経済的利益は本件不動産の価額を基礎として考えるべきである。)。報酬会規は不動産の所有権の登記手続請求事件について経済的利益の価額を対象たる物の時価(一六条一〇号、五号)と定めているから、報酬会規により第九事件の着手金と報酬金を算定する場合の基礎となる経済的利益の価額は、着手金については平成元年五月の本件不動産の時価を基礎とし、報酬金については平成三年一二月二五日における本件不動産の時価を前提として計算されるところの現実に得られた経済的利益の価額を基礎とすべきである(第一審被告加藤ビルは和解成立時ではなく和解の履行時をもって計算すべきであると主張するが、そのように認めるべき合理的な根拠はなく採用することができない。)。
(3) そこで、右各時点における本件不動産の時価について検討するに、乙イ五〇の一によると、本件建物は昭和四年に新築された老朽建物であり、昭和四七年に改築を予定して賃貸店舗を立ち退かせたもののその後一七年間ほとんど保守管理がされず、平成三年当時には賃貸ビルとしての使用ができない状況にあり、取り壊して新たに建物を建築するのが適当な状態であったこと(そのような状態は平成元年においても同様であったこと)、第一審被告加藤ビルは平成五年二月に本件建物を取り壊し、その後本件土地上に一〇階建のビルを建築したことが認められるから、本件不動産の時価は、第九事件の受任時と終了時(本件和解時)のいずれにおいても本件土地の更地価格から本件建物の取り壊し費用を控除した価格とするのが相当である(第一審被告加藤ビルは貸家及びその敷地としての価額が本件不動産の時価であると主張するが、時価とは物件の適正な取引価格のことであるから、第一審被告加藤ビルの右主張は採用することができない。)。
本件和解時における本件土地の更地価額は、甲一〇一(以下「珍田鑑定書」という。)によると二九八億円(比準価格三一一億円、収益価格二五〇億円)、乙イ五〇の一(以下「平松鑑定書」という。)によると二〇三億円(比準価格約二二六億七〇〇〇万円(一平方メートル当たりの価格二五四七万円に公簿面積の八九〇・〇七平方メートルを乗じて得られた金額の百万円未満を切り捨てた金額。以下の平松鑑定書に関する概算金額も同様である。)、収益還元法による一年後更地化を想定した収益価格約一六一億二〇〇〇万円)とそれぞれ評価されており、平松鑑定書によると本件建物の取り壊し費用は一億九九六二万円であることが認められる。このうち平松鑑定書は、収益還元法による評価の価格時点を本件和解日としながら時点修正(変動率八一・二%)により一年後の地価の下落を考慮していることや貸家及びその敷地としての評価にこだわるあまり比準価格を軽視している点で妥当性を欠くのでこれをそのまま採用することはできないが、同鑑定書が試算した比準価格約二二六億七〇〇〇万円や収益価格(直接法による価格約一五九億三〇〇〇万円、間接法による価格約一八一億六〇〇〇万円)自体は採用することができるので、各鑑定書の比準価格を平均して得られた二六八億八五〇〇万円を基礎として、各鑑定書による収益価格を参酌することにより、本件不動産の価格を二六〇億円と認めるのが相当である(不動産の価額はもともと不確定な要素を含むことを考えると右のような形で双方の鑑定書を採用することが妥当であり、弁護士の相当報酬の判断の基礎資料としての時価の把握としては右金額により合理性が担保されると考えられる。)。したがって、本件土地の時価は右金額から本件建物の取り壊し費用一億九九六二万円を控除した二五八億〇〇三八万円であると認められる。
また珍田鑑定書に記載された地価公示標準値(中央五-八)及び中央五-一一の価格の推移に照らすと第九事件受任時(平成元年五月)の本件土地の時価も右算定にかかる価格と同額とみて差し支えないといえるから、同事件の着手金についても右算定にかかる価格を基礎として判断を進めることとする。
(4) 前記のとおり、報酬会規上、着手金は事件を受任した際の対象の経済的利益の価額を基準として算定すべきものであるから、第九事件の着手金は右認定にかかる本件不動産の時価である二五八億〇〇三八万円を基礎として算定されるべきである。次に報酬金は事件によって得た経済的利益の価額であるところ、前記のとおり第一審被告加藤ビルは第九事件の和解においてセントラル企業に和解金二六億五〇〇〇万円を支払っているから、第九事件の処理により確保した経済的利益の価額は右二五八億〇〇三八万円(時価)から右和解金二六億五〇〇〇万円を控除した二三一億五〇三八万円であることになる。
この点について第一審原告は、二六億五〇〇〇万円から第一審被告加藤ビルが支払ってきた公租公課、セントラル企業が支払った仲介手数料、所有権移転の登記費用及び訴訟関係費用等、セントラル企業の立替金の利息等を控除した残額の三億二三九三万六四四〇円が正味和解金であるとして、経済的利益の価額から差し引くべき和解金は右の正味和解金であると主張する。
しかし、第一審被告加藤ビルは右和解により二五八億〇〇三八万円相当の本件不動産を確保する代りに和解金二六億五〇〇〇万円を支払っているから、被控訴人加藤ビルが右和解により得た利益は前記のとおり右差額である二三一億五〇三八万円であるというべきであり、第一審原告の右主張は採用することができない。
また第一審原告は当審において、第九事件は全面勝訴が予想されていたにもかかわらず第一審被告加藤ビルの意向により和解をしたのであるから経済的利益の算定において和解金を控除するのは不当であると主張する。しかし、全面勝訴が予想されるような事件であっても煩わしい強制執行の手続を省いたり新たな紛争を防止する等の見地からある程度の譲歩をした和解をすることは当事者の合理的な紛争解決の一方法として考えられることであり、前記認定の事実関係の下では第一審被告加藤ビルが前記和解をしたことが第一審原告に対する信義にもとる行為であるということは到底できないから、報酬会規の定めに従って第一審被告加藤ビルの得た経済的利益を基礎として弁護士報酬を算定すべきである。また本件不動産の価額に占める右和解金の割合に照らすと右和解金支払の程度では弁護士報酬を増額すべき特段の事由があるということもできない。第一審原告の右主張は失当である。
(五) 報酬額の算定
報酬会規一八条一項によれば、着手金及び報酬金の額は、着手金の場合は対象の経済的利益の価額(本件では前記のとおり二五八億〇〇三八万円)、報酬金の場合は得た経済的利益の価額(本件では前記のとおり二三一億五〇三八万円)を基準として、同項所定の段階区分ごとに一定の料率を乗ずることにより算定することとされており、経済的利益の価額は八段階に区分され高額な段階区分になるに従って料率が逓減されているが、一億円を超える部分については一律に三パーセントと規定されているだけでそれ以上の段階区分は設けられていない。しかし、報酬会規制定(前記全面改定)当時の経済情勢、貨幣価値、地価水準等からみて対象の価額が一億円を超えるような事件は極めて少なく、更に区分して規定する必要性が乏しかったとみられることや、高額な段階区分になるに従って料率が逓減されているという報酬会規の規定方法からすると、一億円を超える部分の全てについて一律に三パーセントとされていると形式的に解するのは合理的ではなく、一億円を超える部分についても更に段階区分を設けて料率を逓減することが予定されているというべきである。この点についてそれ以上に報酬会規の定めるところを推認する手だてはなく、一億円を超える部分について報酬会規が定める具体的料率を認定することはできないが、報酬会規における料率の逓減状況を勘案すると、一億円を超え一〇億円以下の部分については三パーセント、一〇億円を超え三〇億円以下の部分については二パーセント、三〇億円を超え一〇〇億円以下の部分については一パーセント、一〇〇億円を超える部分については〇・五パーセントとするのが合理的である。
そこで、一億円を超える部分の料率は右のとおりとして報酬会規一八条一項に従って弁護士報酬額を算定すると、第九事件の着手金は二億二〇八四万六九〇〇円、報酬金は二億一一〇九万六九〇〇円となり、その合計金額は四億三一九四万三八〇〇円となる。
5 増額及び減額
(一) 前記のとおり、相当とされる弁護士報酬額は報酬会規により算定された弁護士報酬額そのものではなく、その算定金額に訴額、事件の性質、難易、労力の程度及び依頼者との平生からの関係、当事者の意思等の諸般の事情を考慮して増額又は減額した金額とすべきである。
(二) 事件の性質、難易及び労力の程度
前記認定事実によれば、第一審原告が加藤ビルから第一事件を受任した昭和五一年五月から第九事件が和解により終了した平成三年一二月までに一五年間以上という年月を要したということができる。また甲五六の一の一ないし五六の三の二六によれば、第一事件の口頭弁論期日は七〇回に及んでいること、第六事件は第一回口頭弁論期日において第一事件(第一五回口頭弁論期日)に併合され、第四〇回口頭弁論期日に和解勧告がされ和解期日が六回に開かれたこと、第五一回口頭弁論期日には第八事件の反訴状が陳述されたこと、第六九回口頭弁論期日に第一事件と第六、八事件とが分離され、第一事件は第七〇回口頭弁論期日において和解が成立し、第六、八事件は第七一回口頭弁論期日に判決が言い渡されたこと、その後第六、八事件は控訴され、第九事件(控訴審)は第四回口頭弁論期日において弁論終結の上和解勧告がされ和解期日が四回開かれたこと、その後弁論が再開されたこと、第一一回口頭弁論期日に和解勧告がされ和解期日が七回開かれたことが認められ、第一、六、八、九事件の解決には、長い年月を必要としただけではなく、口頭弁論期日も多数回にわたって開かれたということができる。また右各事件には第一審原告のほか三名の弁護士が第一審被告加藤ビルの訴訟代理人として訴訟を遂行したという事情も認められる。
この点、第一審被告加藤ビルは、本件の事件が長期化した原因は第一審原告にあり、これを減額すべき事情として考慮すべきであると主張するが、右長期化の原因は第一審被告加藤ビルが中央土地との間で本件不動産について不明瞭な賃貸借予約契約を締結し、さらに中央土地に本件不動産を取られるのを恐れてセントラル企業(笹川良一)と売買契約を締結したことにもあるのであって、第一審原告の不適切な受任事務の遂行が事件の長期化をもたらしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。また第一審被告加藤ビルは、第一審原告が中央土地とセントラル企業に対し、本件不動産を使用することができないことにより被った逸失利益について早期に損害賠償請求をしなかったのは弁護過誤であると主張する。しかし本件不動産は第一審被告加藤ビルが占有を継続していたのであるから右主張にかかる逸失利益の存在については疑問があり、損害賠償請求をすることの当否についての見解も分かれるところであると考えられるから、第一審原告の対応をもって弁護過誤といい得るものではない。中央土地との間で本件不動産について不明瞭な賃貸借予約契約を締結し、さらに中央土地に本件不動産を取られるのを恐れてセントラル企業(笹川良一)と売買契約を締結するなどの第一審被告加藤ビルの対応自体が、事件を複雑困難にして長期化させた主な要因であることがうかがえるのであって、第一審被告加藤ビルの右主張は採用することができない。
したがって、右のような訴訟の長期化という事情は、事件の性質、難易及び労力の程度という点において第一事件の報酬及び第九事件の報酬算定の増額事由として考慮すべきであると考えられるが、反面、高額な物件を巡る訴訟において事件の複雑化や審理の長期化による弁護士の負担の増加が生じることは一般的に予想されることであり、報酬会規の定めにより算定される弁護士報酬が物件の価額に応じて変動することもその意味で一面の合理性を有しているということができるから、高額な物件を巡る訴訟において報酬会規により算定される高額な弁護士報酬は受任した訴訟の長期化や弁護士の負担増といったものを予め予定した金額であるといわなければならない。この観点からすると、前記第一事件等の審理の長期化等はもともと想定された受任事務の範囲内のものであるとみることができるから、第一事件等の訴訟の遂行状況をもって弁護士報酬を増額すべき事情ということはできない。
また第九事件だけに限ってみれば特に事件が複雑困難で審理が長期化したというような事情は認められないから増額事由はなく、後記のとおり同事件の着手金については減額事由があるというべきである。
(三) 第一審被告加藤ビルの支払った金額、依頼者との平生の関係など
乙イ六、九、一三及び弁論の全趣旨によると、第一審被告加藤ビルが第一審原告に支払った着手金のうち、第一事件、第六事件及び第八事件に関する支払であることが明らかなものは、昭和五一年五月一〇日に支払った一〇〇〇万円(第一事件)、昭和五三年一二月二七日に支払った三〇〇〇万円(第六事件)、昭和六三年一二月二六日から平成二年一〇月二五日までの間に支払った一億一〇〇〇万円(第一、六、八事件)の合計一億五〇〇〇万円であると認められる(他の弁護士の分を含めると前記のとおり合計一億九五〇〇万円が支払われている。)。
また乙イ三、五、八、一二及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告加藤ビルは、昭和五一年四月一三日第一審原告に相談料一〇〇万円を、昭和五三年九月六日鈴木弁護士に独立開業祝五〇〇万円を、昭和六二年五月一八日山根弁護士に準備書面作成手数料五〇万円をそれぞれ支払ったことが認められる。
更に、甲七、乙イ三及び弁論の全趣旨によると、第一審原告は昭和四八年ころから第一審被告加藤ビルの顧問弁護士になっていること、被控訴人加藤ビルは第一審原告や鈴木弁護士らに次のとおり顧問料等の名目で多額の金員を支払ってきたことが認められる。
(1) 第一審被告加藤ビルは第一審原告に対し、昭和五一年三月から昭和五二年三月まで毎月一〇万円、同年四月から昭和六三年一二月まで毎月一一万一一一一円、平成元年一月から平成六年五月まで毎月一〇万円の合計二三四六万六六五一円を顧問料として支払い、同年六月以降今日まで毎月一〇万円ずつ合計五一〇万円を顧問料として支払った。
第一審被告加藤ビルは第一審原告に対し、昭和五五年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で各五五万五五五五円の合計一三三三万三三二〇円を支払った。
(2) 第一審被告加藤ビルは鈴木弁護士に対し、昭和五二年四月から平成四年三月まで毎月五万五五五五円を顧問料名目で合計九九九万九九〇〇円を支払い、昭和五五年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で各二二万二二二二円の合計五三三万三三二八円を支払った。
(3) 第一審被告加藤ビルは山根弁護士に対し、昭和五六年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で各一一万一一一一円の合計二四四万四四四二円を支払った。
(4) 第一審被告加藤ビルは横山弁護士に対し、昭和五七年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で各五万五五五五円の合計一一一万一一〇〇円を支払った。
(5) 更に、第一審被告加藤ビルは、各事件の打ち合せや法廷出頭の際に会議費、都内旅費名目で、第一審原告に一〇万円、鈴木弁護士、山根弁護士、横山弁護士に各五万円ずつの合計一五一八万七六〇〇円を支払った。
(6) 以上のとおり、第一審被告加藤ビルは、第一審原告、鈴木弁護士、山根弁護士及び横山弁護士に対し、顧問料、賞与、会議費、旅費名目で合計七五九七万六三四一円を支払った。
右事実によると、第一審原告は社会的実態としては大きくみて一つの紛争である第一ないし第九事件の処理について、第一事件、第六事件及び第八事件の着手金として一億五〇〇〇万円の支払を受け、相談料、顧問料等の名目で既に相当額の支払を受けているほかに、第一事件の報酬金、第九事件の着手金及び報酬金の各請求権を取得していることになる。第一事件は昭和五一年五月に提起された賃貸借予約契約に基づく本件不動産の明渡請求事件(第一審被告加藤ビルの関係)であり、財団法人日本不動産研究所の鑑定(乙イ三の資料11-1)によると右時点における本件不動産の価額は二三億五〇〇〇万円であると認められるから、その経済的利益を時価の二分の一(報酬会規一六条六号)として計算すると同事件の着手金は三五三四万五〇〇〇円となり、その後の第六事件と第八事件の着手金(ただし、第八事件は第六事件の反訴であり、それぞれの事案からみて会規で定められた額の着手金より相当減額されるべきである。)を合わせてみても第一審原告は報酬会規の定めによる着手金より相当高額の金員を受領していることが疑われる(右算定にかかる第一事件の着手金と対比すると第一審原告が主張する第一事件の着手金は過大であり、第六事件と第八事件の着手金についても基礎となる経済的利益を過大に計上しているようにうかがわれる。)。加えて、社会的実態としては大きくみて一つの紛争であるのにこれが第四、五事件を除く合計七件の事件として第一審原告に委任されたことを考えると、それぞれの事件ごとに報酬会規で定めた弁護士報酬を支払うとするのでは極めて不当な結果になることはいうまでもなく、そのようなことは報酬会規も容認するものではないと解されるから、これらの事情は全体として未払となっている弁護士報酬の減額事由として考慮すべきである。
第一審被告加藤ビルは、顧問料、賞与、会議費等は弁護士報酬の一部であるかのように主張し、証人生田(乙イ三を含む。)はこれに沿う証言をするが、右認定事実に照らし採用することができない。
(四) 以上を総合すると、第九事件の着手金はそれ以前に第一事件、第六事件及び第八事件の着手金として一億五〇〇〇万円の支払を受けていることや第九事件自体の訴訟遂行の状況等に照らし報酬会規により算定した前記金額からその四割相当額を減じた金額をもって相当とし、報酬金は第六事件及び第八事件を含む事件の報酬金であることから報酬会規による算定額とするのが相当である。したがって、第九事件の着手金は一億三二五〇万八一四〇円、同事件の報酬金は二億一一〇九万六九〇〇円と算定され、その合計金額は三億四三六〇万五〇四〇円である。
6 遅延損害金について
第一審原告は平成三年一二月二五日を弁済期とする約定があったことを前提として右弁済期の翌日以降の遅延損害金を請求している。しかし、弁護士報酬の弁済期を事件終了時とする旨の約定を認めるに足りる証拠はないから、第一審被告加藤ビルの本件報酬支払債務は期限の定めのない債務であるというべきである。そして第一審原告が第一審被告加藤ビルに本件弁護士報酬の支払を催告したのは平成五年一二月八日(甲二の一、二)であるから、遅延損害金の起算日は右翌日の平成五年一二月九日である。」
五 争点5について
前記のとおり第一審被告加藤ビルが第一審原告に解決を依頼した趣旨目的は中央土地との関係を勝訴又は金銭の支払により解決するとともにセントラル企業から本件不動産の所有名義を取り戻すということにあったが、弁護士に事件の処理を委任する契約は各事件ごとに締結され、それぞれの事件ごとに弁護士報酬の請求権が発生するから、消滅時効の成否はそれぞれの請求権ごとに判断すべきであり、これを第一事件についてみると、同事件は昭和六三年七月一二日裁判上の和解により終了しているから、第一事件の弁護士報酬金請求権は右和解成立の日から二年間の経過により時効消滅していることが明らかである(民法一七二条)。そうすると、第一審原告の第一事件の弁護士報酬の支払を求める請求は理由がない。
六 争点6について
第一審被告加藤ビルは、第一審原告の本件報酬請求は司法に関する公の秩序に反し、訴求することができない旨主張するが、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
七 争点7(一)、(三)について
第一審原告は、佐々木が第一審被告福井放送の代表取締役である加藤尚の代理人としても第一審被告福井放送が被控訴人加藤ビルの債務を連帯保証することを申し出て、第一審原告がこれを了承したことにより、連帯保証契約が成立した旨主張し、陳述書(甲七)及び本人尋問においてこれに沿う供述をする。
しかし、第一審原告は、本人尋問において、連帯保証の意味ですねと申し上げた気もすると供述するにとどまり、第一審原告の供述自体、佐々木との間で連帯保証の約束がなされたかどうかについてあいまいである。また甲五の一、二、甲七、第一審原告本人によれば、佐々木は、昭和五三年一一月一四日、第一審原告と会い、その際、第一審原告に対し覚書を交付していることが認められるが、右覚書中には「連帯保証」の文言はなく、「福井放送は一丸となり全面的勝訴を勝ちとるまで戦い抜く決意でおります。」と記載されているにすぎないから、これをもって連帯保証を表明した書面とみることはできない。右書面の記載と証人倉内の証言によると、右覚書は第一審被告福井放送が被控訴人加藤ビルと協力して訴訟を支援するという趣旨で作成されたものにすぎないことが認められる。これに対し証人持田は、加藤尚が佐々木に対し被告福井放送が報酬等について連帯して責任を持つことを第一審原告に伝えるよう指示した旨供述するが、これを裏付ける証拠はなく、右覚書の記載及び証人倉内の証言と対比して信用することができない。以上によると第一審原告の右供述は信用することができず、ほかに第一審原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
八 消費税相当額の請求(当審で拡張された請求)について
第一審原告は平成一二年六月二七日に第一審被告らに送達された請求拡張申立書により弁護士報酬の消費税相当額(請求額の三パーセント)の請求を追加している。しかし、弁護士報酬は弁護士の職務に関する債権として事件終了の時から二年の短期消滅時効にかかる(民法一七二条)ところ、弁護士が依頼者に請求することができる弁護士報酬の消費税相当額の請求権についても弁護士の職務に関する債権として二年の短期消滅時効にかかると解するのが相当であり、第一審被告加藤ビルは右短期消滅消滅時効を援用している。そうすると、第九事件は平成三年一二月二五日の和解により終了しているから、右消費税相当額の請求権は同日から二年間の経過により時効消滅したものと認められる。
これに対し第一審原告は、消費税相当額の請求権は弁護士報酬に付随するものであるから弁護士報酬について催告の上本件訴訟を提起したことにより時効が中断されている旨主張するが、弁護士報酬請求権と消費税相当額の請求権とは別個の原因に基づいて発生する別々の債権であるからそれぞれ独自に消滅時効にかかるといわなければならず、第一審原告の右主張は失当である。また第一審原告は原判決により消費税の具体的な金額が確定したから原判決の言渡しがある時まで時効は停止する旨主張する。しかし、弁護士が依頼者との間で弁護士報酬の合意をしなかった場合であっても相当とされる限度で弁護士報酬請求権は発生しているから、弁護士は着手金については受任時、報酬金については事件の終了時にそれぞれ請求することができ、それに伴う消費税相当額の請求も右に合わせてすることが可能であるから、第一審原告の右主張は採用することができない。
九 以上によれば、第一審原告の第一審被告加藤ビルに対する本件弁護士報酬請求は、三億四三六〇万五〇四〇円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、被告福井放送に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
第五結論
よって、第一審原告の控訴に基づいて原判決中第一審被告加藤ビルに対する請求部分を主文第二、三項記載のとおり変更し、第一審原告の当審で拡張した請求及び第一審被告福井放送に対する控訴、被控訴人加藤ビルの控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一、二項、六一条、六四条を、仮執行の宣言について同法三一〇条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 笠井勝彦)